【トップインタビュー・TOTO社長】、日本のトイレ空間は世界の見本

リフォーム産業新聞 2019/01/28より

TOTO 喜多村円 社長TOTO 喜多村円 社長

《プロフィール》
1957年生まれ。福岡県出身。1981年、長崎大学経済学部卒、同社入社。経営企画部長、浴室事業部長、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員などを経て、2014年に代表取締役社長執行役員に就任

パブリック改修、国内外で推進

ラグビーワールド杯、東京オリンピック、大阪万博といった、世界的なイベントが次々と国内で開催される。海外からの観光客が続々と増えていく中、パブリック空間の改修需要はますます高まりそうだ。施設関連の「非住宅」リフォームをどう推進していくのか、TOTOの喜多村円社長に聞いた。(聞き手・本紙社長 加覧光次郎)

変わる高速道路のトイレ

――本紙は「住まいと街をREFORM(改革)する」をキーワードに、住まいだけでなく街にあるオフィスビルやホテル、商業施設の改修に注目しています。国際的なイベントが次々決まる中、TOTOではパブリック空間の改修にどう取り組んでいますか。

 例えば、高速道路のパーキングエリアはずいぶんときれいになってきていますね。これは日本道路公団がNEXCO(ネクスコ)に変わった頃から、「トイレをきれいにしよう」とやってきました。今パーキングのトイレで汚いところはないでしょう。NEXCO間違いなく集客が増えますからね。

――昔は息を止めて入るようなものばかりでした。

 実は日本のパーキングエリアが盛況だということが海外にも伝わっています。3年前のドイツ・フランクフルトで行われた展示会「ISH(アイエスエイチ)」に出したとき、ドイツでパーキングエリアを運営している会社の人がどうしても私たちに会いたいと。言われたのが、日本のパーキングはえらい評判が良い。トイレもいいらしいよねと。

――ドイツより日本の方が進んでいると。

 日本に来たので案内したら「すばらしい」と。実は今、ドイツのパーキングのトイレをきれいにしたらどうなるか、と試しています。聞いた話によると、ドイツはパーキングエリアが有料。だから、魅力がないと来てくれないんです。

――アウトバーン自体は無料ですから、日本と逆ですね。

 公共の施設がきれい、これが付加価値だということが広まっています。例えば、ニューヨークにある公園のトイレを改修したのですが、そこでいろいろ議論になったのは、公共のトイレは臭くて、汚くて、割と木が茂っているようなところにあって、犯罪の温床になるよね、と。みんながきれいに使えるトイレにしたいということで、明るく清潔にしたら、その公園で一番利用率が高いトイレになりました。

飛行機にも採用

――成田空港のターミナルにある体験型トイレ「GALLERY TOTO」はもうすぐ4年くらいになります。喜多村社長も2~3年ほど前から日本は「世界のショールーム」という言葉を使っていますね。

 ショールームと言えるくらい日本のトイレをきれいにしていきたいね、ということでそういう言葉を使っています。

――TOTO製品は新幹線や飛行機でも採用されています。

 例えば、ボーイング787型機に入っていますよ。このときはシアトルに人を送り込んで難しい技術を実現しました。地震くらいなら大丈夫だけど、飛行機は何万回も着陸するでしょ。それに耐えられるかどうか、試験をやるわけです。こういう声がかかることが大事で、大変でもきちっと応えていくのがTOTOです。

「静音」が米で高評価

―― 国内のパブリックにおけるシェアはどれくらいでしょう。

 かなり高い。実際、創業時代からそこに力を入れてきましたから。ただパブリックは安くてよいという概念もありましたので、そうは儲からないもの。だけどそれでも清潔なものにしたいという要望に応えてきた。昔、パブリックのトイレにウォシュレットが付くなんて考えられなかったですよね。例えば今なら駅とか空港には付いている。普通はメンテもあるので、嫌がるはずですが、日本はそこまで来ています。

――世界のパブリックトイレと比べて日本はどのようなレベルにあるのでしょうか。例えば欧米と比べると。

 日本が異質なほどレベルが高い。例えば欧米の高級ホテルに泊まっても、まだ洗い落とし式が多い。サイホン式なんて滅多に見ないですね。TOTOはワンプッシュでしっかり流れますが、ほかは流れないこともある。それと音が静かでないものもあります。デザインはいいんですがね。アメリカでは音が静かだという点が人気です。汚れが付きにくいとかより、音なんですね。

――品質が高く評価されているようですね。

 機関投資家の方に家のトイレは何ですかと聞くと、「当然TOTOだ」「奥さんはネオレストが好きだ」とか言われます。「なぜTOTOを使うのか」と聞いたら、圧倒的に詰まらない、圧倒的に完成度が高い、だからTOTOなんだと。配管の最後まで釉薬塗っているのはTOTOくらいですよ。普通は汚れが付いて、流れにくくなるものです。アメリカのプロユーザーはよく品質を知ってくれています。

オフィス、病院にも注目

――中期経営計画ではパブリックは前年比3%増の成長率を目指していて、住宅の1.6%より高い水準ですね。

 訪日外国人が増えるようになってからは特に力を入れ始めています。

――年間6000万人くらいになりそうな感じもしますね。

 そうなるとまだまだインフラ設備が足りない。例えば、多言語対応とかも。もうイタリアとか観光大国はどこでも翻訳のヘッドホンを貸してくれますからね。過去の遺産で食っているけれども、努力を怠っていない。観光インフラで先進的なものを取り入れて世界中から人を呼び込もうとしている。日本はそこがまだ。でも、おもてなしの考えや清潔感も、これだけの観光資源もある。トイレがきれいであるとということも、日本のブランドを高める1つの材料だと思ってます。

――働き方改革で進むオフィスの改装は狙い目でしょうか。

 顕著に増えてきていることは間違いないです。ただ、ホテルとかの方がボリューム的には多い。オフィス改革はこれからで、今目立つのは大手です。中小ビルはどこまでやってくるのか、まだ波になってはいない。今は新しいビルの設計に織り込まれていくことが大事です。

――病院やクリニックでの取り組みは進んでいますね。「癒しのトイレ研究会」という活動も進められています。

 大事なマーケットです。病院の場合はお客さんが使われるものが違います。例えば、尿量を図りたいから、そういうものを作ってほしいという提案をいただいたり。介護者が入りやすいものを作ってほしいといったこともあります。当然トイレがきれいじゃないと衛生的ではない。健康に直結しますからね。

――衛生面でいえば、発展途上国でのトイレ需要も見込めますね。

 トイレをきれいにしたいという思いを強く持っています。日本だって、たかだか40~50年前は家の外に厠という状況。トイレは臭いので家の中に入れたくないというものでした。家の中に入ってきたのはここ40~50年の間なんです。途上国はまさにそんな状況です。

――インドもそうでしょう。

 お金持ちでも家の中にあること自体が少ない。トイレは少し距離を家と離してと。下水道の完備も十分ではないです。TOTOは100年ほど前の創業時、西洋の衛生的なトイレ文化を見て、日本もそれを目指そうと。その結果、下水道をしっかり完備した国になった。やはり、トイレが臭い、という状況では生活が豊かになったという実感がないはずです。

競合には品質で対抗

――トイレもそうですが、ウォシュレットはかなりグローバルに展開していく考えですね。米国では2022年に売り上げを200億円にすると。これは2017年比で3倍以上です。

 伸びてきました。一回使うとやめられないと聞きます。だけど、よく知ってるけど、使いたいとは思わないという人がまだいる。まずは体験してもらうようにしたい。

――中国でも大きく伸ばすと。

 中国ではウォシュレットに似たような商品を百何十社が作っています。価格は3分の1とかでね。見てみると故障に弱そうなものが散見されます。ネオレストを作ったときもそうだったのですが、結局良いものが残り、似たようなものはなくなる。うちは30年やって痛い目にあって、苦しい歴史の蓄積がありますからね。